2011
 西中〜十津川〜果無〜果無峠〜七色分岐〜八木尾〜三軒茶屋〜熊野本宮大社
夜中にトイレに行くために目を覚ますと、コロの目がキラリと輝いていました。朝を迎え、さすがに帰ってしまっているだろうとテントから出ると、尾を振るコロがいました。「おはよう!帰らへんかったんか?」人間の朝食の心配よりも犬の餌の心配をするなんて前代未聞だと思いつつも忠犬ハチ公の様な愛おしさに、ご飯の上にメザシを小さく刻み差し出すと美味しそうに食べ始めました。
我々も同じ食事を取り、温かい紅茶を飲みたいところなのですが、タンク水漏れ事件があったため、それもできずで出発準備をすることにしました。
「コロ!峠でお別れやで!家に帰りや」 そんな言葉をかけて今日のコースは下りが多いことから膝を痛めないように細心の注意をはらいながらトップを姫が歩くことにしました。どうもコロの事が気がかりで振り向くと何とまだついて歩いているではありませんか。「そうか〜西中集落の母親に会いたいのか」と私達も別れづらくなっていたため一緒に歩くことを喜びと感じて歩いて行くと谷を流れる水の音がしてきました。
「顔を洗って歯磨きをしよう」 リュックをおろして久しぶりに水に触れることができました。コロは昨夜から喉が渇いていたのでしょうか。谷から流れる水をペチャペチャと音をたてながら美味しそうに飲んでいました。古屋倉跡にさしかかったとき、ジョンがGPSを落とした事に気が付きました。さっきの洗顔場所の様です。
リュックを置き、今来た道を少しだけ戻るのですがコロもまた一緒について来てくれました。リュックはないと言いながらも登りの道が身体に少しきつく感じて「なぁ、ここで待っていようか?」そうコロに言いながらジョンがGPSを片手に戻ってくるのを途中の岩に腰をかけて待っていました。その後はリュックにしっかりと固定し矢倉観音堂、西中バス停へと、緩やかな道を快適に歩くことができました。
▲出店跡
 ▲矢倉観音堂にお参りをして
▲三浦峠登山口まで下りてきました。ここから西中まで さらに下っていきます
西中の集落に出た車道で1台の軽トラのおじさんが「お前また来たのか?」とコロに話しかけてきました。「おじさん、この犬知っているのですか」と今までのいきさつを話し、何とか飼い主に連絡をしてほしいと頼むと「なぁに大丈夫さ、いつもの事だから」と言って、その場を去って行きました。
小さな雑貨屋を覗いてみると、ちくわが売っていました。コロのご褒美にちくわを買い、道端に腰を下ろし、十津川行きのバスを待つことにしました。さきほどの軽トラのおじさんが戻ってきて「ほほぅ〜コロはリラックスしてるのぉ、腹を見せてるやないか〜」そう言われて見ると、姫に寄りかかり股を広げおっぱい丸出しの姿で寝ころんでいました。
 ▲西中でバスに乗ると振り返ることもなく我が家を目指して去っていきました  ▲コロ
五百瀬集落から西中集落まで13qあります。一泊したとはいえ犬も疲れたのではないでしょうか。西中バス停から昴の里までは歩道のない車道歩きとなるためバスを利用する事にしました。コロに別れを告げ、十津川村営バスに乗り込みました。
私達が一番つらくてしんどかった三浦峠越えコースを共に歩いて励ましたくれたことに感謝をしコロとの別れを惜しみました。
▲西中から柳本橋まで奈良交通のお世話になりました
▲買い物を済ませ 小辺路に戻って進みます
▲果無峠を目指して登っていきます。
▲ちょっと果無地区のお宅の庭にお邪魔して
十津川村の中でも世界遺産が通る果無(はてなし)集落は、果無山脈を見渡す美しさから「天空の郷 (てんくうのさと)」と呼ばれ、
集落の中を通る熊野古道・小辺路はミシュラン・グリーンガイド・ジャポンでも三ツ星に輝いています。また、日本の里100選にも選ばれています。 
▲果無から八木尾は三十三観音の巡拝地です
▲果無の観音堂にお参りをして
▲果無の地区から果無峠まできつい坂が続きました
 ▲果無峠です  ▲果無峠で果ててしまった姫
果無集落を過ぎると、急な登りも多く道も狭く、崖の様なところもあり緊張が走ります。三十三観音は33番、32番31番と、八木尾集落にある1番までの間、さまざまな形で立っていました。手を合わす観音様や考え事をしている観音様、琵琶の様なシャモジの様な物を抱える観音様など見ていてとても心穏やかにさせてくれました。観音堂で水タンクに水を補給し、手元にあるペットボトルにもたっぷり水を補給できました。荷物は重くなったものの三浦峠での水の不安は解消できました。出発してから8時間30分、やっと果無峠に到着しました。展望もよく「デンの記撮影会」も済ますことができました。
峠には、宝篋印塔の台座と第17番観音菩薩石像が祀られ道標が祀られている。石地力山・ブナの平から果無山脈の縦走路を示しているが、小辺路はここから南に下っている。
▲此の夜のテント場は七色の分岐でした 
今夜はここら辺でテントを張りたいのですが、風がつよくもうしばらく下って場所を探すことにしました。岩のゴツゴツした狭い下り道は荷物が重いため膝にズッキン、ズッキン堪えます。もう体力も限界に近いため早くテント場を見つけなければなりません。果無峠から急ぎ足で1時間ばかり下った所に三十三観音の9番があり七色分岐が目の前に見えている場所を宿泊場所と決めました。先客がテントを張ったの形跡が残っていました。まずテントを張り、雨対策のためリュックにツエルトをかぶせ、手間でも大きな木にロープで縛り付けました。この手間が夜中の強風に耐えられる結果となったのです。

柳本橋のたもとで仕入れた食料で豪華な夕食です。水もたっぷりあるため紅茶もいただけます。翌朝のお茶も沸かすことができました。
「明日はアッという間に熊野本宮に到着やから出発は7時でええなぁ」 もう出口が見えたことから心の余裕ができ、今までのコースを振り返ることができました。風が出てきたため、もう一度ツエルトの荷物を確認、ゴミ袋が飛ばされないようにしっかりと縛りテントの中に入りました。時間にして午後10時を過ぎた頃でしょうか風の音が激しくなってきました。
「峠の広場にテントを張っていたら、テントごと吹き飛ばされてたなぁ」それほどに強い風でトイレに出たジョンが寒さに震えながら戻ってきました。続いてポチもオシッコに出て同じ様に震えて戻ってきました。姫はその姿を見て、とうとう朝までテントから出ることができませんでした。

ゴオーッ、ゴオーッと風のうなりで一睡もできず不安なため「なぁもう寝てる?起きてる?」と声をかけるのですがジョンもポチも風の音に負けないぐらいのイビキの音をたてて深い眠りについています。仕方がないので両手の人差し指で耳栓をして、まんじりともしない朝を迎えました。風の音が消えウトウトしたら、もう朝でした。 
文:美智子  
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