2013 ゴールデンウィーク 瑞牆山遭難対策
「レスキュー243」の持つ意味は「243富士見」と「243不死身」「レスキュー243」活動スタート!
●4月28日(晴れ)
大型連休はどこに行っても大渋滞という先入観があり、今まで出かけたことがありませんでした。しかし今回は連休中の山の事故を未然に防ぐと言う目的を達成するために、どうしても出かけなければならなくなりました。午前6時大阪を出発です。予想した渋滞もなく2時間ほどで養老サービスエリアに到着しました。ここでジョンとドライバー交代をして1ケ月前にも通った長坂に向けて車を走らせました。ポッチーは今回病院のモニターになっており欠席です。車窓からの景色は、すでに田植えが始まっており、山は萌木色と山サクラのピンクとのコントラストがとても美しく眩しく目に入ってきました。「目に青葉〜山ホトトギス〜初鰹ああぁカツオのタタキが食べたいなぁ!」「何じゃそりゃあ!」そんな会話をしながら外の景色を楽しみました。リンゴの白い花が咲き、甲斐駒ケ岳は白い雪帽子をかぶり富士山はと言うと霞んではいますが凛として気高く、これもまた真っ白な雪帽子をかぶっている様子が見えました。長坂インター午前10時30分いつもと変わらないスムーズな通過です。

長坂インターを降りて増富温泉に向かう道すがら姫が素っ頓狂な声で「とめて〜!」またまた始まりました。山梨県産のイタドリを見つけた様です。崖の上であろうが川岸であろうがイタドリ目がけて走って行き、あっという間にイタドリを抱きかかえて車に戻ってきます「塩も持ってきたし・・・そや!スーパーに立ち寄り薄アゲとごま油買って山小屋でイタドリ食べよう!」姫のイタドリ好きはもう誰にも止められません。そうこうしているうちに瑞牆山駐車場に到着しました。駐車場は満杯状態で道路にも沢山の車が駐車されており私達の駐車スペースも危ぶまれていたら、下山した登山者が丁度帰り支度をしており1台だけ空きスペースを確保することができました。(ラッキー!)
さっそく「ずっ恋岩」へクライミングへ 
 今夜はひめの誕生パーティです。
この夜も8時30分の消灯まで盛り上がりました 
荷物が沢山あるため若あるじとレスキューメンバーが迎えに来てくださり1ケ月ぶりに再び富士見平小屋を訪問することとなりました。
「今回はテント泊で自炊をします」と挨拶の後宣言し仲間たちが設営してくれたテントにそれぞれが落ち着くことができました。テント場には既に沢山のテントがカラフルな花を咲かせておりとても綺麗です。テント付近に人影はなく、既に瑞牆山や金峰山に出かけているようです。小屋に着くと「これお土産です!」と差し出した品は何と小屋で履くスリッパ8足でした。(何故10足つまりテンではないかと言うと・・・前回テンに痛い目に遭っているからあえて8足にしました。キャハハハ)「お饅頭は食べると消えるけれどスリッパは消えない」と言う姫のアイデアで小屋スリッパ「水色4足・ピンク4足」が小屋の仲間入りをすることになりました。小屋を利用される皆様愛用して下さいね。「ジョンさん〜!明日スリッパ置き作ってな〜!」「よっしゃ〜!」これで明日の仕事が出来ました。

落ち着いたところでイタドリの皮を剥き、早速塩漬けしていると「ボク達は明朝帰るので、ぜひ今夜食べたい〜」とレスキューメンバーに言われて、少し酸っぱ味の残るイタドリを料理することにしました。あるじに「今夜誕生日の人がいるので小屋に来て一緒に祝ってやって」と声をかけて頂きましたので夕食の食材を片手に小屋の中に入りました。小屋には宿泊者やテント場の客も混じりスタッフも数えると30人はいたと思います。満員御礼状態です。

マダムの手作りケーキの上にはローソクの代わりに割りばしが燃えています(笑)シャンパンを片手に、さてさて誰の誕生祝いかと言うと何と26日に65歳になったばかりの姫の誕生日を祝ってくださったのでした。思いがけないバースデーパーティにうれしくてウルウルと目頭が熱くなりました。あとは飲めや歌えの大盛り上がり、標高1812mの地にあるランプの宿は消灯時間まで賑やかに山の話に花が咲きました。「では消灯時間となりましたので「山小舎の灯」と「ふるさと」を歌ってお開きに致しましょう」と姫の合図でみんなで大合唱して楽しい山小屋のパーティは幕を下ろしました。その後トイレに行く途中、さきほど一緒に楽しんでいた宿泊者の女性が「こんなに楽しい山小屋は初めてです。歌がとても感動しました。某小屋は消灯時間が来ると突然電気が消え、しかも小屋のスタッフだけ食堂の片隅で延々と飲み食いしているところが多い中、歌で消灯を知らせるとは素晴らしい!」と言って下さいました(有難い話だけど、オネガイ・・・トイレ行かせて〜漏れちゃうよ〜)

 ●4月29日(晴れ・温度2度)
テント場の朝は寒くて霜柱がサクサクと音を立てています。気温も体感温度も寒いです。午前6時前には既に金峰山に出発するテント場の登山者達の後姿がありました。今朝の富士山はことのほか美しいです。今回のゲレンデ開拓予定である鷹見岩は凍結しており残念ではありますが今回は開拓ならずという事になりました。昨夜の出来事です。バースディパーティに参加したテント場の若者がほろ酔い気分でお開き後にテン場に帰ることになりました。彼はヘッドライトがないのに気が付き、仕方がないので姫が送って行くことにしました。「アレッ?ない〜!ボクのテントがない〜どうしよう!」「そんなわけないでしょ!テントの色は何色?」水色だと言うテントを探しましたが見つかりません。寒さで身体はガタガタと震えています。「たしかフライを掛けていなかったと思います」「何でフライかけてないの?」「雨が降らないと思ったので省略しました」そんな会話をしながら寒さに震えながら10分以上探しました。「ありましたっ!」やっとのことで自分のテントをみつけました。夕暮れ時はヘッドライトは持ち歩こうね。テント迷いをしたので「迷子の子猫ちゃん」と名前を付けました。彼も仲間に入り早朝からレスキューの復習をしたり「水場の岩」「ずっ恋岩」「おやじの岩」を廻り岩場の清掃をしました。

午後1時を過ぎると続々と瑞牆山から下山してくる人がいます。若者2人と高齢者2人の4人連れが下山してきました。高齢者の人が足を引きづりながら登山道を降りようとしています。よろけ気味で足のバネが無く、いまにも倒れそうです。若者のリュックにはストックが2本刺さっていたので「大丈夫ですか?ここから急な下り坂になりますのでお仲間のストックを借りて降りられてはどうでしょうか?」「・・・」ただ黙々と下っていきそうでした。「もしここで転倒すれば仲間の皆さんに迷惑がかかりますので、トスックを借りて下山して下さい。ホラ!あなたもストックをリュックから抜いて渡してあげて!」若者にそう声を掛けるとやっとストックを借りる決心がついたのか転倒することなく降りていかれました。安全への声かけもりっぱなレスキュー
です。気になったら「さりげなく」声を掛けて下さい。押しつけがましさは要りません。

テントの中に入って用事を済ませ出ようとしたらチャックが噛み込んで開かなくなりました。助けを呼ぶのですが誰も聞こえていない様子です。周囲の人達もみんな山に登っているし困ったことになりました。どのくらい時間がたったのでしょうか、随分長い時間に感じました。「おるか?」とジョンの声。やっと私がいないことに気が付いてくれた様です。やっと助けてもらえました。登山を終えて戻ってきたテント泊・食事付の若者達6人がカラフルな覆面をかぶり「帰ります。ありがとうございました」と小屋に挨拶にやってきました。なかなかおもろいので記念写真を撮らせてもらいました。
 赤レンジャー、黄レンジャー、青レンジャー?あとは? 黒レンジャー、緑レンジャーかな 
この朝の富士山 水場で食器洗い ロープの手入れ このアイゼンで登るのですか?
●4月30日(くもりのち雨 温度3度)
今朝はどんよりとした空で富士山が隠れています。午後からは雨の予報です。こあるじと若あるじは麓へ買い出しに出かけました。登山者も天候が悪いためかほとんど登ってきません。「今日はスリッパ置きを作ろう!」という事になりジョンとsaiちゃんのお兄ちゃんとでスリッパ置きの棚を作ってもらう事にしました。条件はそんなに難しくはありません「スリッパを乗せても落ちない棚」なのです。小屋の便利棚も作り完成間近と言う頃になってsaiちゃんのお兄ちゃんが「どうも捻挫したみたい」と言いだしたのです。「そりゃあ大変だ〜レスキュー出動っ!」などとジョークを飛ばしたものの、かなり痛そうです。聞けば朝、テン場の小石に乗っかり足をくじいた様子です。あるじがテーピングをし、若あるじが買い出しから戻るのを待って駐車場まで乗せて行ってもらうことにしました。もっと早く言えば痛みが和らいだかも知れないのに我慢強いんだからぁ〜。今日は棚作りやギヤーボックス作りに従事した一日でした。
若者は目が良い 高山植物の名前を調査中…次回は名前バッチリ〜 連休の合間、saiちゃんのお兄ちゃんと棚や箱作りです
出来たど〜…スリッパ置き場
●5月01日(晴れ 温度 氷点下3度)
世間はメーデーなのですが1812mの地にいると下界とはかけ離れた生活を営むことが出来ます。朝はルリビタキ(別名・・・幸せの青い鳥)の姿を見たり、富士山と挨拶を交わしたり、おだやかな朝を迎えることが出来ます。でもとても寒いです。昨日雨だったせいもあり、自宅で待機中の登山者が朝早くから金峰山に向けて小屋の前を足早に通り抜けていきます。駐車場の車の中で仮眠をしたという登山者が午前6時ごろにやってきて「次にはここで泊まりたいね」と言って金峰山登山口に向かいました。
今日はテントの引っ越しをすることにしました。私のテントの近くに4〜5人用の大きなドーム型をした「motooマンション」があります。レスキューメンバーから富士見平への寄贈品で皆さんで使って下さいと言うお心遣いの様でしたので、では私が早速住み心地をリサーチしようと引っ越しをすることにしました。今までのテントが四畳半のアパートならば「motooマンション」は、さながら豪華マンションと言うところでしょうか。じつは・・・・チャック挟まれ事件があってから引っ越しを考えていたところで、天井も高く入り口も2か所あり快適なテント生活が過ごせました。転居届も出しましたよ!
今日は平日で連休の谷間のためレスキュー要請の出番もなく、レスキューメンバーは平穏な日々を送っています。出動に備えて近場の岩場にクライミングの練習に出かれることになりました。

←「motooマンション」…すごく快適です。
わたしは瑞牆山の凍結が一体どの程度なのか後半の連休を迎えるに当たり、気になったため瑞牆山まで行って見ることにしました。「瑞牆山の凍結具合を調べてくるわ」と行先を告げ、自分の目でみておけば明日からの登山者への対応も違ってくるはずです。リュツクに雨具、レーション、水、救急セット、30mのロープを入れ正午に富士見平小屋を出発をし20分ほどで天鳥川に到着しました。桃太郎岩あたりには多くの登山者が休憩していました。「あの岩は桃太郎岩って言うのですよ。桃の様に割れているでしょ?」と説明すると、「なぁるほど!」と、桃太郎岩まで引き返し記念写真をとる人もいました。桃太郎岩や大ヤスリ岩などの下調べをしてから訪れると楽しさも倍増するのではないでしょうか。
桃太郎岩  フィックスロープも古すぎます (クサリに変更を申請中) 
 スランドが剥き出し  私は前爪付きアイゼン  片手でロープ、片手で岩を持つのは良い登り方ですよ 
大ヤスリ岩  アイスバーン化した頂上直下  瑞牆山山頂
しばらく登って行くと大ヤスリ岩が見えてきました。大ヤスリ岩直下で数人が休憩をしていました。その中に頭から血を流して座り込んでいる青年がいました。傍らで心配そうにのぞきこむ彼女らしき人が立っていました。「どうしたの?」と聞くと木の枝が頭部に当たり流血したのだそうです。すぐリュックから救急セットを出して止血、その後に手当をしました。「登山には私の様にヘルメットを着用すると安全ですよ」と言うことも忘れませんでした。ゴロゴロと大きな岩を登り、時々岩と岩の間が凍結している部分に出ました。「これは下りは危険だな」そう思うほど凍っています。13時40分、黒森分岐までくるとアイゼンを装着する人達がいます。アイゼンを外そうとしている人もいました。「もう少し下までアイゼンはめたままの方が安全ですよ」「ここでアイゼンを装着したので」「いえいえ。登りと下りでは危険性が違います。せっかく持っているのですからもう少し下まで履いて降りましょう」とアドバイスをして下山する人を見送り、その後、ツルツルに凍結した北側の斜面をアイゼンを効かせながら頂上をめがけて登りました。
一歩一歩踏み出すと、カチ氷を割る様ないい音がしてアイゼンが効いていることがわかります。午後2時頂上に到着です。

頂上でレーションと水分を補給した後、下山しようと凍結部分に来ると若い女性が立ち往生していました。4本爪のアイゼンは装着していますが下りが怖いと言うのです。アイゼンを履いた経験も浅く、打ち付けるようにして歩く方法を教え、リュックからロープとシュリング、カラビナを出し仮りのスワミベルトを作りました。ゆっくりとロープを出しながら無事凍結した斜面を脱出しました。(アイゼンを履いた足をソロ〜ッと置いて・・・そりゃ滑るわ〜)危険個所を通過すると若い女性は何度も礼を述べて、何事も無かったように足早に下山して行かれました。

途中で「あっ姫さん!富士見平のホームページ見ています〜」と声をかけてくる女性に出会いました。ヘルメットに「姫」って書いてあるので声をかけてくれたみたいです。富士見平のホームページ人気に出会いちょっと嬉しかったです。山小屋到着午後4時。到着するや否や「レスキューしたんだってね!」と小屋のあるじが言いました。いま下山したばかりなのに何故知ってるのかキョトンとしていると下山中の男性が小屋に立ち寄り「小太りの小屋の関係者が怪我人を手当をしていた。しかしあのおばさん頂上まで登れるのかどうか」と心配をしてくれたらしい。
(大きなお世話だよ〜山は小さな歩幅を保ちゆっくりと登るのがコツ。体力任せにドタバタと登るんじゃねぇよ!それにしても小太りのおばさんとはうまい表現だぜぇ〜)

今日の体験を生かして後半の連休時には黒森の分岐にレスキュー隊を出動させて安全の連呼とロープによる安全確保を提案しよう。そう感じた下見登山でした。 
●5月02日(晴れ 気温 氷点下4度)
ゆうべテントの屋根をパラパラとアラレが舞い降りました。朝はテントの屋根が真っ白になっています。とにかく寒いです。亀の様に首がすっこんでしまっています。富士山も降雪が確認できました。いよいよ明日から多くの登山者がやってきます。明日は黒森分岐にパトロール隊に出動してもらい、瑞牆山に行く人の安全を確保する対策が決定しました。お願いするメンバーも快く承諾してくれました。怪我をした人を助けるのがレスキュー隊の仕事ではなく、怪我人を出さないためのパトロールも大切な仕事である事をみんなが理解してくれています。

明日の対策会議も終え、時間の余裕が出来たため何か仕事はないかと小屋をひと回りしました。小屋の大工道具が大きなダンボールに入っており「アレ取ってきて!コレ取って来て!」と言われても探すのにいつもひと苦労するのです。それに道具を探すのにも時間がかかるため、今日は道具掛けを作ることにしました。(と言っても作るのはジョン!私は監督だけ・・)どうせ作るからには取り出した後も何がどこにあったのか分かり易いように道具の名称を書き込むことにしました。整理整頓も事故を防ぐりっぱな手段です。

午後になると登山を終えてテン場に戻る人が増えてきました。登頂し嬉しくなって祝杯をあげたのかテン場利用者が、かなり酔っ払って小屋の中に乱入し、おまけに小屋の中で喫煙し、ほかの客にその事を注意されると、逆恨みすると言う事件が起こりました。
あるじが一喝!、若あるじも勇敢に二喝、あるじは本気、若あるじは演技。
酔っ払いは
退散したかの様に見えましたが、何度もウロウロと小屋の中に入ってきました。登山道のテントから様子を伺っていた姫の堪忍袋の緒が切れたのか酔っ払いをひとつまみしてメデタシ・・・メデタシ。夜は遅ればせのハセポンのバースディとちょこっと先に迎えるマダムのバースディを祝おうという事で前回同様愉快で楽しい宴が消灯時間まで続きました。勿論お開きは「山小舎のともしび」と「ふるさと」を全員で歌い、手を伸ばせば届きそうな満点の星を仰ぎ、山の早い夜は更けて行きました。 
アラレが舞い降りました   今日は大工仕事だよ
ゴッキー…マメだよ〜 おーい、小屋をつぶすなよー
工具置き場の完成です…これで工具箱をひっくり返さずにすむね…使ったらもとに戻してねーちゃんと名前をかきました。
●5月03日(晴れ 温度氷点下3度)
いよいよ後半の休日に突入しました。瑞牆山の下見時に黒森分岐周辺にパトロール隊の配置を提案し今日から実行することにしました。スタッフにこのことを話をしたら快く行ってくれるという隊員がいたためロープ、カラビナ、シュリンゲ、救急用品などを用意し午前9時に出発しました。残りのスタッフは登山届やテントの受付をするためのテントの中の店開きをして訪れる登山者にアイゼンが必要であることをお知らせ致しました。「アイゼンをお持ちですか?お持ちでなければ頂上は踏めません!危険と感じたところから引き返して下さい!」そう叫びながら注意を促しました。今日は山頂付近でパトロールをしたスタッフの感想文を紹介いたします。この日の夕方、若あるじが大日小屋の見回りに行きましたが全ての人達が富士見平小屋できちんと手続きを済ませたマナーのある登山者ばかりだつたそうです。登山道に設置した受付テント効果は今迄テント受付をせず設置していた人達の関所がわりになりみんな気持ちよく利用できました。
小屋を出て瑞牆山に向かう「レスキュー243」のパトロール隊…ニッシー&ロッキー
ニッシー&ロッキー この日のスタッフ・左3人は売店係
 山岳遭難対策隊 ロッキーさんの感想
 5月3日(金) ゴールデンウィークの後半初日にRESCUE243のスタッフとして瑞牆山へパトロールに向かいました。前日に登山道に突き出た枝で頭に傷を負ったお客様がいらっしゃったため、その枝を落とし、また登山道の目印の不明瞭な部分を補修するためでした。この日は天気も良く、朝からお客様が非常に多く歩かれていました。登山道での「アイゼンをお持ちですか?」との呼びかけに対して、9割のお客様が「持っていますよ」とお答えになりましたが、山頂直下での様子を見る限りでは7割弱と見受けられました。
頂上まで残り10分の場所は完全に凍っており、アイゼンをお持ちでないお客様が果敢に登っていかれるのを、危ないですよと呼びかけつつも、あの山頂の絶景見たさを思えば、無事に登って、次にいらっしゃる際にはご用意頂きたい、と断固とした注意が出来ない自分自身の甘さに嫌になりながらも横で眺めることしかできませんでした。もちろん、山頂直下で引き返されたお客様もいらっしゃり、こちらが勇気づけられました。

 今回、RESCUE243への参加を考えたきっかけは、数年前、山行中に友人達を危ない目に遭わせた反省の気持ちがありました。ある時は沢登りで落石に遭わせ、また、別の機会には行動時間の見極めの甘さ、お互いの意思疎通不足、そして装備の確認の足りなさから下山が深夜になったことがありました。幸いにして大事には至りませんでしたが、次に同じ状況で助かる自信はありませんでした。それ以来、細々と個人山行を続けていましたが、山との向き合い方を変えたいという思いが決意となりました。

 今年のゴールデンウィーク中の瑞牆山では救助要請をするような事故が一切発生しませんでした。例年の状況と比較すると奇跡でした。ここで敢えて恥を晒しますが、4月27日に鷹見岩へ下見に行った際、アイゼンを持参していなかったにも関わらず、北側の凍った斜面を歩き、転んで頭を激しく打ってしまいました。打ち所が悪い場合は最悪の事態もありうる状況でした。かなり論理を飛躍させるのですが、山も日常生活も同じ意識で臨むべきではないかということでした。山ではミスが顕著に現れますが、普段の日常生活では周りに助けられ、会社勤めや日常生活ではミスをしていながらも気づいていないのではないかということでした。また強引に振舞うことで乗り切ったつもりになっているのではと考えさせられる出来事でした。
ちなみに数人のお客様へは傷をご覧頂くことで、この時期のアイゼンの大切さや凍った箇所の危険さをご理解頂く助けにはなりましたが。

 その夜、一つの答えを得る出来事がありました。小屋では20時30分の消灯後に打合せを兼ねて小屋主を囲んでいました。実はこの時点でご予約のお客様が数名現れていませんでした。10時前に予約の一名が「寝る場所はありますか」と現れました。幸い、夜の山を彷徨っていたわけではなく、少し離れた場所で宴を行っていたようでした。彼らは山岳部のOBでしたが、現役の学生達と顧問の先生はテントで先に休んでいました。小屋の主が顧問の先生を呼び、山小屋の受付をしない状態でOBの生徒放置していることを指摘し、また小屋泊まりのOB達へは礼儀などの基本を学ぶべきである、と(反省の意味で)下山しなさいと伝えました。駐車場には顧問の車があるとのことで、車内にいさせることとなり(しかし、排気ガスの危険性もあるためエンジンはかけない)、243のスタッフである我々も付き添う形で駐車場まで歩くことになりました。
 翌朝、顧問の先生は現役の生徒達へ事情を話し、連帯責任で下山しようと呼びかけ、「もう一度、部の体制を整えて、伺わせて頂きます。」と下山していきました。

 夜のやり取りの中で印象に残ったのは「このような状態では他人のお子さんを預っているにも拘らず、いつか非常に残念な登山になるのではないですか?」という台詞でした。
RESCUE243のメンバーではありますが、普段のぬくぬくとした環境で過す中で、山の厳しさを日常の中に忘れず、正しいことを追い求めるべきであると心を新たにする機会となりました。
 ●5月04日(晴れ 温度 3度)
午前4時、テントを撤収するパサッパサッという音に目覚めました。テントから首を出して見ると初めて寒さを感じない朝を迎えました。昨夜のミーティングで黒森分岐や頂上直下で30人ものアイゼン無しの人達の安全確保をした話を聞き、今日も昨日に引き続き、メンバーを替えて黒森分岐にパトロール隊を出てもらうことにしました。本来はアイゼンの携帯がなければ諦めて引き返してくれれば事故はないのですが「せっかく来たのだから・・・大丈夫だろう」と登り、挙句の果てに事故を招くのです。パトロール隊の声掛け・手助け効果により何事もなく連休の後半を迎えることができそうです。「アイゼンお持ちですか?」と聞くと「ハイ持っています」と答えてくれますがちっちゃなリュックに入るはずがありません。合羽も入っていない事がよくわかります。中には「駐車場に置いてきた」という人もいます。「大きなお世話だ!」と顔で答えてくれる人もいます。パトロール隊も現場で嫌な言葉を浴びさせられて随分不愉快な思いをしたみたいです。
しかし苦労の積み重ねがりっぱなレスキュー隊員として育って行くのです。我慢してね。耐えてね。
小屋のヘルメットとロープを借りて…いざ瑞牆山へ 佐野ちゃん到着 MOTOOさん水汲み
おかえり、おかえり、おかえり… パトロール隊の帰着を出迎え
かどっぴ、ニッシー、若あるじ 任務完了…お疲れ様
 ●5月05日(晴れ 温度氷点下3度) 
 今日は子供の日です。家族連れの登山者も多く、今日もメンバーを替えてパトロール隊に出てもらう事にしました。黒森分岐から頂上にかけての凍結がひどいためにフィックスロープを張って安全を確保してもらうことにしました。
午前6時だと言うのに多くの登山者が登ってきます。駐車場で仮眠をし、夜明けを待って富士見平に到着した様子です。パトロール隊のメンバーはは水場横のモアイ岩でロープワークと準備運動を兼ねてクライミングを実施し、午前9時、黒森分岐に向けて出発しました。

ハーネスを付けカラビナ、シュリンゲ、ロープ、子供用ハーネス、ヘルメットなどをリュックに詰めて「ひとりの負傷者も出さないこと」を合言葉に瑞牆方面に向かいます。私達は全員の安全を祈りながら仲間たちを見送りました。
残りのメンバーはテント受付、水汲み、テン場見回り等々多種多様の仕事があり、去年はこれらを全て管理人さんがこなしていたのかと思うと驚きです。
昼間は温度も上がり、ポカポカ陽気で麓はすでに初夏の陽気かも知れません。子供連れの親子には小屋にヘルメットや子供用スワミベルトの無料貸し出しがあることを知らせると喜んで借りて行く親子もいました。鯉のぼりをリュックにさして登ってきたグループがあり思わず写真撮影をお願いしました。
レスキュー隊員の中で子供が成長し不要になった鯉のぼりが押入れで眠っていたら小屋に寄贈していただけませんか?5月中、掲げておくことができるので楽しそうで登山道付近に鯉のぼりをたてて置けば癒しのオーラが出るのではないでしょうか。黒森分岐に出動したパトロール隊は午後2時を目途に撤収を決めています。
2時直前に登ってきた駆け込み登山者が「急いで頂上を踏んできますので私が帰るまで待っててくれますか?」と哀願されたそうです。
パトロール隊は
「今回はロープでお手伝いしますが次回からはアイゼン持参して下さいね」
と安全を呼びかけたそうです。
(なかなかエエ仕事してるじゃん)
小川山分岐辺りから見た瑞牆山…此処の山頂直下は凍結しています。
小屋前を出発です 標識が緩んでいれば直します 危険箇所では振られないようにロープ操作を
この登山道は凍結しています…そこをスニーカーで?…事故が起きないのが不思議です 
 ●5月06日(晴れ 温度3度)
最後の休日となりました。休日ギリギリを利用する登山者は少なく甲武信からの縦走を終えて富士見平で休憩をする登山者が目立ちました。受付に使用していたテントを撤収し、小屋周辺の見回りを終え、岩場の清掃を終え下山準備にとりかかりました。用意してきた9日間の食材も、ほぼなくなりました。リュックの荷物がいつものことながらリュックに収まりきれません(♪なんでだろう〜♪)入りきらない荷物はリュツクの外に自転車のゴムネットでくくりつけ午後3時、名残惜しくはありますが富士見平小屋に別れを告げることにしました。道路の渋滞も気がかりです。私達が下山するまで救急救護を必要とする怪我人はゼロと言う快挙を成し遂げました。去年の状態を知る管理人さんは「素晴らしいことです!レスキューチームを結成して良かった!」と満足げな笑顔が印象的でした。日本全国山小屋多しと言えど私設レスキュー隊を結成しているのは富士見平小屋だけだと思います。下山後、増富温泉に立ち寄ると「おかげさまでお客様が沢山きて下さいました」と受付嬢が喜んでいました。小屋で割引券を手渡した効果があったようです。町も潤い、小屋も潤い共存していくことが活性化につながると思います。

連休中の瑞牆山&金峰山では事故者ゼロの快挙の中でした。全国では山岳遭難で16人死亡、2人が不明が8県で相次ぎました。なかでもテントの中で死亡というニュースもありました。5月7日の午前8時40分ごろ、石川県の山毛欅尾(ぶなお)山(1365m)では、テント内で69歳のお医者さんが死亡しているのを消防署員が発見したそうです。石川県警によると、厳しい冷え込みで衰弱したとみられるといいます。よほど寒くてコンデションが悪かったのでしょうか。69歳と言えばジョンと同じぐらいの歳、しかも標高も富士見平1812mだからほぼ同じような条件にもかかわらず死に至ることもあるという事を知りました。私達も寒さに震える夜もありましたが、ありったけの防寒対策をして寝袋に入り、無事に朝を迎えることができました。今回の後半はテント「motooマンション」で快適に過ごすことができました。ダンロップ製で大きさは4人から5人用で、しかも今回は一人暮らし!背丈も高く居心地は最高でした。テント生活で夜間にトイレに行くときはテントの中も点灯しておけば迷わず自分のテントに戻ることができることを学びました。レスキューチームでテント場利用時はこの「motooマンション」を借用すれば4人は快適に生活することが出来て、夜には楽しい密談も可能です。そして何よりも仲間同士の親睦が深まります。 
 訓練用岩場を懸垂下降中の若あるじ
訓練用岩場の掃除 訓練用岩場の試し登攀 こあるじの見送りをうけて
福井からのお客様をお見送りして…メンバー全員下山の途につきました
 「ひめのまとめ」
連休中、20人以上のレスキュー隊の皆さんが日程調整をして参加して下さいました。日帰り、トンボ返り、連続待機と、形はさまざまですが無理せず都合のつく日に協力をしていただきました。忘れてはならないのが横須賀の「お祭り野郎チーム」ウッチー&Yhoさんです。日曜・祭日が仕事のため今回参加は出来ませんでしたが平日に参加し、小屋への荷揚げ、小屋の修繕を精力的にしてくれています。目に見える協力だけではなく、目立たぬ陰の協力もあってこそ、レスキューチームが成り立っていることを忘れないでください。
今後、色々と考え方も違ってきてトラブルが発生するかと思いますが、そんな時は「富士見平小屋にとってプラスかマイナスか」で折り合える接点を見つけて下さい。「老体は去るのみ」ではありませんが軌道に乗るまでが私達の仕事だと思っていて、今回で充分軌道に乗ったと確信しています。あとは若い人達で力を合わせて頑張って頂きたいと思います。
「レスキュー243」の使命は救助要請のない時はまず小屋仕事の手伝いを終えて「限りなく小屋周辺のゲレンデを使い登山靴を履いてのクライミング技術を磨き、救助要請があればただちに現場に駆けつけられる」これが原点です。そのことを忘れないで頂きたいと思います。そして帰りにはゴミの持ち帰りの協力をお願いします。空き缶は林道に駐車中の軽トラックまで運んでくれると助かります。ちょっと遺言めいていますが(大笑)マダムが遠慮して言えないことを大阪のおばさんがまとめて言っとくよ〜!任せたぜぇ〜!
「ジョンのまとめ」
レスキュー243の訓練を開始してから1ヶ月、この僅かな間にメンバー達は、登山道の安全を図るまでになりました。懸垂下降やデバイス登攀、ハイラインによる空中搬送など難しい訓練からスタートしましたが良くやっていただいたと思います。今後、基本的な救助方法を身に付けていただければ、より良くなると思っております。日々少しづつ努力して次回につなげてください。
小屋前の立ち木を利用してビレイやフィックスロープの張り方や歩行テクニックを訓練していただければと思います。

夏には中高年の安全登山講座や親子登山のためのロープワークなどやっていただける若者が育って下さることを望みます。
それにはフリークライミングと並行して登山靴でのぼる岩場登攀も忘れないでください。
 美智子姫:記00