安全なクライミングを目指して
日本フリークライミング協会では,クライミングについて次のように考えております。  
 自分達のフィールドを守るために
クライミングを始めたばかりの人はあまリピンと来ないかもしれませんが、アクセス問題とは、クライマーがクライミングエリアに立ち入る際に起こりうるクライミング禁止を含めた諸々の問題のことを指します。
特に近年、クライマー人□は増加傾向にあり、これまで問題が起きていなかったエリアでも登撃禁止や自粛の動きが目立つようになってきています。
アメリカではアクセス・ファンドというアクセス問題対策専門の組織が設立されており、会員数は1万人を超え、多くのスポンサーがついて、自分たちのフィールドを守る様々な活動が展開されています。
日本フリークライミング協会(JFA)でも05年度よリアクセス問題解決のための予算を組み、また、09年度からは組織として全面的にアクセス問題活動に取り組んでいます。各地のクライマー組織と連携を取りながら具体的な交渉などのアクセス問題対策活動を進めています。
アクセス問題対策で重要なのは、地権者、地元住民、他の目的で利用する人たち(観光客、ハイカー、各種作業者等)といったクライマー以外の人たちへの配慮です。クライミングエリアの多くは私有地にあり、そこで生活している住民もいます。また、国立公園内にあるエリアもあり、そうした場所には観光客やハイカーなど、さまざまな利用者も訪れます。クライミングは、そうした共有の場所でおこなわれるものであり、クライマーのためだけのエリアというものはありません。他の人たちへの迷惑にならないことはもちろん、地域の方々とも積極的に交流し、地元の施設(駐車場、宿泊、買い物、温泉施設、飲食等)の利用を通じて、地元から歓迎される存在になることが理想です。
ここではアクセス問題発生の原因として挙げられるものをいくつかご紹介します。アクセス問題解決のためには、組織たった活動も重要ですが、一人一人が「なぜ、こんな問題が起きたのか?」「なぜ、このエリアにはルールが課せられているのか?」などを考えなければいけません。中にはクライマーだけの問題ではないこともありますが、守るべき事柄をよく読んで、問題が起こりそうな場所では節度ある行動を心がけてください。フィールドを守るのはあなた自身なのです。
 
 駐車場
クライミングエリアでは、近くに駐車場があるとは限りません。できるだけアプローチに便利な場所に車を停めたくなりますが、その場所が本当に停めて大丈夫かもう一度よく考えてください。
狭い林道脇などに駐車して、林業関係の大型のトラックが通行できなかったり、他県ナンバーの車が、長時間路肩に駐車していることが地元住民に不審に思われることがあります。多少遠くても広い場所、できれば有料または公共の駐車スペースを利用してください。
また、観光地などでは、入れ替わりの早い観光客に比べ、クライマーは終日駐車するので、端の場所に停めるなどの配慮が必要です。もちろん管理の人がいる場合は一声かけていくほうがいいでしょうっ 満車の場合は遠くから歩く、もしくは他のエリアへ転進してください。駐車スペースが限られているエリアでは、複数人で乗り合わせたり、電車やバスなどの公共交通機関を積極的に利用するなどの工夫も必要です。
 
 宿泊など
クライマーならば岩場近くの駐車スペースで、車中泊またはキャンプしたこともあると思います。しかし、原則的にキャンプは定められた指定地以外は行えません。
ましてや火器を使用したうえに、飲酒して騒ぐなどは問題外です。こういった行動が発端となり、禁止になった岩場もあります。
仕方なく車中泊する場合も、できるだけ岩場から離れた場所、かつ周囲に住居のない場所を選んでください。
また、車中泊が禁じられている場所もあります。余裕があれば、宿泊施設を積極的に利用し、地元に還元することが最善の方法です。
 
 トイレ問題
岩場の周囲にトイレがないエリアも少なくありません。基本的には岩場付近での「大」は禁止と考え、できるだけ事前に済ませてください。
万が一に備え、携帯トイレを持参し、使用後はすべて持ち帰ることが原則です。やむを得ない緊急の場合は、深さ15cm 以上の穴を掘って済ませ、ペーパーは持ち帰ってください。「小」も「人」も水源となりうる川などからは十分(特に「大」は50m 以上)離れておこなうことが鉄則です。
 
 伐採・焚き火
私有地内にあるものは、草木1本まで地権者や地上権者の私財にあたります。これを伐採したり、持ち帰ったり、著しい改変を力口えたりすることは、器物損壊罪などの法律に違反する可能性があります。また、国立公園内においては自然公園法などに違反する可能性があります。
原則的に岩場での焚火は禁止です。地元や地権者が最も恐れることは山火事などが起こることです。コンロなどの火器はもちろん、タバコ等の火気も十分に注意してください(禁煙のエリアもあり)。
 
 残地物
自分の土地でない以上、原則的に岩場にギア等を残置することはできません。ルートにセットしたクイックドローについても同様です。1日のトライが終わったらドローは回収すべきです。ただし、2日連続でそのルートを確実に登るという場合や、日没時に回収するのに危険が伴う場合などに、残置が許されるケースもあります。
取り付き付近でのロープやザック、敷物などの残置も、場所によっては景観を損ねることがあります。また、長期残置はギアの劣化を進めますので、思わぬ事故の原因にもなります。終了点も含めた残置ギアを使用する場合は、しっかりと点検することが基本です。
 
 チョーク跡
近年、特に過度なチョーク跡が問題視されています。クライマー以外の観点からは、景観を損なう落書きと指摘されるケースもあります。また、クライマー同士のマナーとしても、残されたチョーク跡は、その後に訪れるクライマーのムーヴを探る楽しみを奪う行為です。過度のマーキングは控え、立ち去る際にはブラッシングしてチョーク跡を掃除するのが基本です。
掃除に使用する際は、毛が金属でできたワイヤーブラシは、岩を削ることがあるので、原則的に使用できません。柄が金属のものも同様です。また、柔らかい岩では、プラスチック製のものでも削れてしまう場合があるので、岩質に合わせて豚毛などの柔らかいブラシを使用してください。
 
 挨  拶
岩場周辺で地元の方などに出会ったら、「おはようございます」「こんにちは」程度の挨拶をしましょう。また、車を停める場合は「ここに停めていいですか?」くらいは尋ね、自分たちがクライミングに来たことを簡単に説明してください。
地元の人たちにとっては他県ナンバーの車が押し寄せ、大きな荷物を背負った見知らぬ人に無言で通り過ぎられると、やはり不安になるそうです。地元と積極的にコミュニケーションをとることは、アクセス問題発生を未然に防ぐ最善の方法です。
 
 大声、奇声、奇行
近隣に住居がある場所や観光地などでは、不必要に騒ぐのは慎んでください。気合いを入れてるときや、完登して喜びの雄叫びを上げることがありますが、今一度周囲を見渡して、自分がいる場所の状況を確認してください。上裸になることも同様です。
近くに他の人がいない場所であっても、林の中など、思った以上に声が通る場合もありますので注意が必要です。
 
 安全に留意
クライミングは常に危険が伴う行為です。ひとつのミスやトラブルが重大事故につながります。大きな事故が発生し、それが死亡事故だったりしたならば、一発でクライミング禁止となる可能性もあります。救急車や救急ヘリが何度も来ていては、地元の人たちもクライミングやクライマーに対して良いイメージを持たなくなるのは確かです。また、行政側か安全対策としてクライミングを禁じるということもあります。
クライマーには、自身の安全に対する義務があります。
正しい知識と技術を学び、身につけ、自分の安全を自分で管理する自己責任が原則です。
 
 オーバーユース
これはフリークライミング人口が拡大・増加し続ける以上、避けられないことなのですが、ここにご紹介したすべてのアクセス問題の原因・理由に密接に関連しています。
かつて、フリークライミングは一部の愛好者のみだったのですが、近年ではブームとジムの普及などにより急激に愛好者を増やし、その人たちがフィールドへと出て行くようになっています。しかし、岩場の周辺の地元住民、行政など、岩場を取り巻く環境はそうした人口の急増に対応できるような体制にはありません。その結果、これまで問題とならなかったような様々な事象が問題になってきています。あなた白身が当事者であることを認識してください。
 
 その他
ガイドブックや雑誌などに紹介されていて、一般にメジャーと思われているエリアであっても、すべてが適切な手続きを踏んで、地権者などから正式な許可を得ているエリアとは限りません。また、地権者や管理者が変わっただけでも、ある日突然登れなくなることもあります。
具体的な対策はケース・バイ・ケースですが、アクセス問題の発端が感じられた場合は速やかに情報を共有し、対策が必要となります。ローカルごとの対応で解決する場合もありますが、そのような場合でも、経過や結果はできるだけ広く伝えることが大切です。
JFAでも、組織としてアクセス問題にできる限り対応しています。まだまだ実績は少ないですが、資料の作成や交渉のノウハウなどはあります。また、各地のアクセス問題対策のグループとネットワークも構築中です。何か問題が発生した(しそうな)場合はぜひご相談ください。
 
 最後に
本稿ではいろいろと注意点を書き並べました.もちろん我々クライマーが日頃から自らの行動に注意を払うことは重要ですが、同時に、社会に対してクライミングの本質を伝え、正しく理解してもらうことも必要でしょう。互いの理解があれば、トラブルも起こりづらくなります。
また、仮に問題が起きても、初期の段階ならば話し合いなどで解決もしやすいなります。こういったことも考えながらアクセス問題には対応していくべきではないかと考えています。 
 
日本フリークライミング協会では、全国の岩場のアクセス情報をまとめた「岩場アクセス情報」をウェブサイトで公開しています。岩場に行く場合、当該エリアを確認し、最新の情報を得るようにしてください。
http://freeclimb.jp/
日本フリークライミング協会発行 「私達の安全とフィールドを守るために」 から引用