姫の山登り
Yamatabi倶楽部・山行報告
 後   編 
28日(日)朝 8時00分法華院温泉山荘 出発。
今日も天気が良くないものの、平治岳と北大船が顔を出していました。坊がつるの湿原も避難小屋もはっきりとわかります。昨日通ってきた大戸越の位置も確認できました。「このぐらいの天気が続いてくれれば良いのに」と願いながら法華院温泉をあとに久住山を目指します。鉾立峠への道から右に折れ南下。途中登山道崩落のため沢筋に出て、沢に沿って登ります。大きな石ころだらけの道は傾斜もきつく歩きにくい。濃霧の中に小さな滝が姿を現してくれる、ちょっと一息つく。視界は50mぐらいはあるだろうが、上に行くにしたがって短くなっていくにちがいない。
尾根もピークも見えない。見えるのは周りの樹木と野草だけ。
九重連山の中岳を通る磁北線から東側は坊がつるあたりを除くと標識の整備が行き届いていないような気がする。稲星山と中岳の鞍部を西に進む辺りで、久住山方面にとるべしを御池のほうに進んでしまった。
10時30分 中岳分岐通過。 
濃霧で標識を見落としたのかも知れなかった。前のグループのリーダーの声がトランシーバーを通して聞こえてくる。「避難小屋に到着しました。ここでしばらく休憩します」「了解しました。まもなく到着できると思います」この辺りはザレ場で緩やかな台地のため、踏み跡らしきものが無数にある。トランシーバーで送信する「リードの平ちゃん応答願います。申し訳ないが肉声で呼びかけてください」「お-い聞こえますか」「聞こえますか」と大声で怒鳴ってくれる。
声のほうに足を向ける。だんだん声が大きく聞こえてくるようになる。ぼんやりと濃霧の中に建物らしき物が姿を現してきた。リードの平ちゃんの姿を確認 「了解確認できました。ありがとう」 後続のグループも小屋に無事到着した。
10時50分 池ノ小屋・岩室に到着。
地図で確認すると池ノ小屋の石室である。しばらく休憩を取る。外は大風。狭い石室だが風は遮断できている。水をふくみ、レーションを口に運ぶ。全員元気が出てきたようだ。
ちょっと一息つく。
サブリーダーが歌詞カードを配る。「ここで坊がつる讃歌を歌いましょう」声とともに右手の人差し指のタクトが静かにリズムを刻み始める。
群馬からソロで来たという男性の登山者も巻き込んで、全員声を揃えて大合唱。岩室の中に歌声が共鳴する。
       坊がつる讃歌
1♪ 人みな花に 酔うときも 残雪恋し 山に入り 涙を流す 山男 雪消の水に 春を知る♪
2♪ みやまきりしま 咲き誇り 山紅に 大船の 峰を仰ぎて 山男 花の情けを 知る君ぞ♪
3♪ 四面山なる 坊がつる 夏はキャンプの 火を囲み 夜空を仰ぐ 山男 無我を悟るは この時ぞ♪
4♪ 出湯の窓に 夜霧来て せせらぎに寝る 山宿に 一夜を憩う 山男 星を仰ぎて 明日を待つ♪
5♪ 石楠花谷の 三俣山 花を散らしつ 篠(シノ)分けて 湯沢に下る 山男 メランコリーを 知るや君 ♪
6♪ 深山紅葉に 初時雨 暮雨滝(クレアメタキ)の 水音を 佇み聞くは 山男 もののあわれを 知る頃ぞ♪
7♪ 町の乙女等 思いつつ 尾根の処女雪 蹴立てつつ 久住に立つや 山男 浩然の気は 言いがたし♪
8♪ 白銀の峰 思いつつ 今宵湯宿に 身を寄せつ 斗志に燃ゆる 山男 夢に九重の 雪を蹴る♪
9♪ 三俣の尾根に 霧飛びて 平治に厚き 雲は来ぬ 峰を仰ぎて 山男 今草原の 草に伏す ♪
合唱は9番までのフルコーラスを歌い終えると静かにタクトは降りた。この時間は全員風の恐怖を忘れ、濃霧で視界の無い九重連山・坊がつるを心に描くひと時だった。
11時28分 池ノ小屋・岩室出発。 
ここから久住山の登山ルートに出るまでの間は御池と空池の間の岩稜帯を通過するため、二班に分けて、ロープをリードとラストの間に張り、各自シュリンゲを体に巻いて、カラビナロープとを繋ぎコンティニュアスで通過することにした。
強風の中時折突風が吹く。「座れ」「岩をつかめ」「行こう」「座れ」「岩をつかめ」「行こう」この繰り返しである。突風にバランスを崩す仲間もいたが全員で立て直し進んで行く。右にぼんやりと水面が見える。「御池」の標識。「もうすぐ難所も抜けられる、気を引き締めていこう。」
天狗ヶ城の標識を見つけたときは、ホッと胸を撫で下ろした。
久住別れを過ぎたのに避難小屋が見当たらない。以前濃霧が視界を遮っている。右手奥から女性の声らしきものが小さく聞こえてくる。「右に折れよう。避難小屋は広場の奥にあったように思う」右手に進んでいくと避難小屋が姿を現してきた。
もう大丈夫だ。
12時27分 久住別れ避難小屋到着。
しばらく休憩。
久住別れから北千里浜ルートをと諏蛾守越を通って長者原へと向かう。久住別れからの下り晴れていれば北千里浜の流れが目に映るだろうに、足元の石や草木以外は目に入らない。時折左手に大きな岩塊がうすぼんやりと見え隠れするぐらい。歩きづらい下りを降り切り北千里浜の砂地を歩く頃、硫黄のにおいが鼻をつく。硫黄山の近くを歩いている。風の関係からか匂ったり匂わなかったり。
硫黄ガスも有毒には違いないがこれくらいなら大丈夫だろう。全員足並みを揃えて北千里浜から諏蛾守越へ上がった。
13時55分 諏蛾守越休憩所通過。
カーン。カーン。カーン。諏蛾守越休憩所の鐘の音が響く。参加者が鳴らしていく。
ここから右にとれば三俣山の山頂に至るが、ここもピークハント諦める。悪天候のため思いのほか時間をとられてしまう。結局九重連山のピークを一つも踏むことも無く下山することになった。残念だがやむをえない。
この辺りにはやたらと黄色いペンキが石に塗られているが、濃霧の日にはありがたい。その石を辿るように下山していくと治山ダムの向こうに硫黄山林道が見えてきた。あそこまで下れば下山したのも同じようなもの。
14時30分 治山ダム通過。
「今日の風はきつかったなあ 『♪山で吹かれりゃよー 若後家さんだよ♪』 この歌詞の意味よう解かったわ」
治山ダムの下で雪山讃歌を合唱。
時折見える長者原の景色を楽しみながら、バスの待つ長者原ビジターセンターを目指して下っていった。
16時00分 長者原ビジターセンター到着。この山行の結びとなった。