Mr.ダビットソン クライマーへの道
阪急芦屋駅~高座滝~地獄谷入口~地獄谷~A懸垂尾根~A懸垂岩~第一鉄塔~高座滝~阪急芦屋駅
岩梯子から荒地山コースを難なく通過したことから今回は地獄谷をご案内することにしました。暑くもなく寒くもなく丁度良い気候となり山歩きには最適です。地獄谷は岩場が多く時には滝を攀じ登るコースにつき一般登山道ではありませんが雑誌等で初級コースと載せたためハイキングモードでやってくる若者が増えました。(山と高原地図では点線ルートの中級者向けと表示しています)途中で「登山道はどこですか?」と聞かれることもあります。地獄谷には登山道はありません。自分の目で確かめながら岩場を攀じ登っていくのです。スニーカーでは危険です。 
 今回は岩場歩きの地獄谷遡行です。大阪神戸近隣の山岳会が冬山の山行の前に必ずと言っていいほどアイゼンやロープワークのトレーニングに入山するコースです。
わが町此花区も秋真っ只中という感じです。芦屋川駅から芦屋川沿いに高座の滝を目指していると周りの山や川沿いの街路樹も赤くなりつつあります。午前9時、阪急・芦屋川駅でダビットソンさんと合流し高座の滝までの上り坂をウオーミングアップと決め、ゆっくりと歩いて行きました。(私の最も苦手とする滝の茶屋までのダラダラ坂・・タクシー来ないかなぁ) 。滝の茶屋から更に進んでいき、高座の滝前のコンクリートの小さな橋を渡りお地蔵様に挨拶を済ませ、階を上がり切通を過ぎれば地獄谷への下降路があります。
地獄谷の入り口でハーネス装着、クライミングギアのセット、ロープを出しやすいように入れなおして準備をします。その間多くの登山者が通過していきます。殆どの登山者がヘルメットの装着をしていません。中にはスニーカーの登山者もいます。
ハーネスにヘルメットを装着し準備していると数組の人達が通過していきました左のゲートロック側を恐る恐る行く人や真ん中の岩を掴んで行く人、それぞれのラインを選んでおり見ていて愉快でした。水の流れはほとんどありません。「急がないでゆっくり確実に足の置き場を見据えて」と、岩場での登山靴の置き方をを伝授し、岩を掴んで進みました。小さな滝を登りながら地獄谷の核心部へと入っていきます。
スタートしてすぐのところにある岩場です。小さなホールドをつかみ細いスタンスに足を置きながら進みます。上の大きな写真で見ると右の方から入っていきます。このラインを通る登山者は少ないです。
 ほとんどの人達は中央稜へ向けて登って行きます。土曜日で混雑を予想していましたが地獄谷は空いている様子です。初めての人を地獄谷に案内する時は我が会のルールによりロープで安全確保と決めています。
地獄谷は色々なラインを進むことが出来ます。メンバーによって簡単なラインを進むこともありますが、今回は難しいラインを選んで進みます。
この2段の滝は地獄谷で一番高低差のある滝です。先ずは姫がロープを引きながら最上部の樹木に支点の構築に上がります。フォローのダビットソンさんはロープが濡れないようにコントロールします。支点が構築されロープの弛みがとられ「どうぞ」の声を合図に登り始めます。ロープが緩んでいると、もしもの時落下距離が長くなりますのでリードもフォローも注意が必要です。ロープが緩んだ時は「テンション」と大きな声を発し緩みをとってもらってから登り始めます。また岩の様相によって自分に上るライン上にロープがないときはロープを煽ってライン上に来るようにします。
登攀完了、先ずは一安心です。ロープを纏めて次に進みます
 落石があったようです。水線の上に大きな石が無数に転がっています。ここまでくればダビットソンさんの腕のほどは解りますが、ここも長い滝なのでロープを使います。
トップがロープの段取りをしてフォローに掛けて上がっていきます。上で支点が構築できるとロープのスラックをとって軽いテンションをかけてから「どうぞ」のコール、登り始めます。
 後続者が来たら先を譲るつもりですがラッキーな事に土曜日とは思えないほど空いています。中央稜からは「ヤッホー・ヤッホー」と子供達の賑やかな声がこだましていました。「あっちは渋滞してるね」何度かの滝を攀じ登り鮫岩まできました。ここでいつも休憩をしたり軽いミーテングをします。ここでレーションの柿を頬張りました。(休憩時に力を沸かせてくれるのは果物や飴やチョコレートです)
休憩を終えると次に出てくるのがカニ岩です。ここはしっかりとロープで確保しました。しかし岩場が様変わりしていて驚きました。カニ岩から上部のスラブにかけて大きな岩が崩落しており3年前の原型をとどめていないのです「ここどこ?どないなってんの?」まるで初めて登攀する場所みたいで驚きでした。大きく様相が変わっています。ここでもロープを使います。ロープは使う手順を練習しておかなければいざというときに役に立ちません。今日はダビットソンさんの安全を図るのが目的ではありますが、私たちも支点の構築の手際やロープの出し入れの速さ、もつれたりキンクさせたりしないように心掛けながらトレーニングをしています。
慣れているコースとは言え、油断は禁物です。緊張しながら高度を上げていきました。今日は小便滝の水も枯れています。チョロっとも流れておりません。いつもはA懸岩めがけて行くのですが、今回はA懸尾根へと進んで行きました。(足の短い私の苦手な箇所があります)見晴らしの良い場所でランチタイム、空は青く、ときおり吹く風が肌寒く感じるほどでした。この場所に佇むとコロナの事を一瞬忘れることが出来ました。 
ここで後続に道を譲ります。5人グループです。リーダーは「こんにちは」と声を駈けて通過していきましたが、グループの時は「後ろ4名も通過します」そう声をかけておけば何人通過するのかわかります。中の三人はこんにちわでも目があえば会釈でもいいです。ラストが「こんにちわ」だけではいけないのです。「お待たせしました。これで最後です。ありがとうございました」これぐらいの配慮はしてほしいものです。
A懸尾根のピーク 万物相 (ピラーロック跡)
此処で昼食です。わずかな昼食時間中に、スマホ片手に悩んでいるソロの女性がピラーロックに行きたいのに行けない・・・と困っておりジョンが方向を指示してあげました(圏外の六甲でスマホを信じちゃいけないよっ!)次に2人組の人達もピラーロックに行きたいのに行けないと言うので私達の後ろに付いて来てA懸垂岩から左の道を行けばいいと教えて差し上げました。
A懸尾根から下りてくるとA懸垂岩です。岩場を見せて登るかどうか無理強いはせず本人に選択して貰うことにしました。還暦にして初挑戦のクライミング、こんなチャンスは滅多にありません。出かける前にお嬢さんから「お父さんには地獄谷は無理よっ!」と言われたらしく父の逞しい姿を見せたいと私達は応援団になった気分でした。「どうされますか?」と顔を覗くと少年の様に目がキラキラしていました。笑顔も見れましたので「登りましょう!」ということになりました。時間はまだ正午を過ぎたばかりで時間はタツプリあります。
私達にとっても3年ぶりのクライミングです。リードで支点を取りに行くためクライミングシューズに履き替えました。いつもですが緊張の一瞬です。支点が取れ懸垂下降で降りてきて、しばらく低い位置で「ロアーダウン」「クライムダウン」「懸垂下降」の練習を重ねました。下でジョンがビレイをし姫が上でロアダウンや懸垂下降の補助をするためにまた登攀していきました。下部写真、右上のビレイロープの弛みが大きいよー……ゴメン。
いつもながら最初のリード登攀は怖いなあ 
懸垂下降はいつやっても気持ちがいいなあ……急な岩場の下降は一番安全な方法ですが間違ったら命の保証はありません。 
登る前に細かなチェックや登攀のためのレクチャーをおこないます
 ロープを使い安全策を構築したうえで登攀の練習
 ロープを使い安全策を構築したうえで下降の練習
ロープを使い安全策を構築したうえでロアーダウンの練習 
トップロープでの登攀で最上部まで上がります 
最上部までトップロープで登攀し懸垂下降で降りてくる練習です
クライミングの終わりは上部の支点を回収しアンカーのアイボルト2本に直接ロープを通し均等に分けてからATCをセットして懸垂下降で下り、そののちロープを抜いて完了です。
ダビットソンさんの呑み込みは早く、スキーヤーだけのことはあってバランス感覚は抜群です。運動神経はとても良いとお見受けしました。連続で2回登攀しロアダウンと懸垂下降を繰り返しました。もうこれ以上一度にするとクライミングが嫌いになってはいけないので「今日はこのくらいにしとこか!」という事になり、支点を解除し懸垂下降で下降、ロープを回収し帰り支度となりました。クライミングの技術は岩登りを楽しむだけではなく、高い山で必ず遭遇する岩場を安全に通過するための手段であることを説明し第一鉄塔に向けて崖の様な道を攀じ登りました。

帰り道は中央稜のコースを下って行くのですが午後2時だと言うのにまだ続々と登ってくる人がいます。風吹岩までなら大丈夫だと思いますが有馬までは無理だよね(大きなお世話かナ・・笑)と言いながら高座の滝まで降りてきました。お稲荷様に無事下山を報告し今回の初体験がどのように感じておられるのかちょっと心配しながら阪急・芦屋川駅で解散となりました。帰宅後にダビットソンさんから『毎回のことですが、本当に気分爽快です。特に、今回の地獄谷コースは楽しくスリルを味わうことができました。娘に自慢したいと思います♪』とラインを貰いホッとしました。
ひ め
最近はクライミングに出掛ける事も無かったんですが案内ついでに楽しませて頂きました。地獄谷・クライミングコースは私達の大好きなコースです。某山岳会はA懸岩を簡単すぎて小馬鹿にしますが基本を学ぶには最適な場所だと自負しています。某山岳会が事故を多発させているのは基本を重んじない所にあるのかも知れません。3000m級の山の頂上付近は岩場が多いです。基本をしっかりと身に付けてさえおれば山を安全に楽しむことができます。私達はクライミングで基礎を学び岩山でトレーニングを重ね多くの山々のてっぺんに立つ喜びを得ることができました。いつかダビットソンさんにもそんな爽快さを味わって欲しいと思っています。