〜ありがとう冬の八ヶ岳「根石・天狗・硫黄」〜
2010年3月には14名の参加者と共にスノーシューに出かけた地である夏沢鉱泉へ行こうと急に思い立ち天候と相談しました。比良への二度にも及ぶ天候不良によるスノーシュー中止で、ストレスの山がモクモクと標高を稼ぎはじめたのです。八ヶ岳の地図を広げると去年みんなと山頂を踏んだ赤岳やスノーシューで訪れた事のあるオーレン小屋等が、「おいで!おいで!」と手招きをしているように見えました。今回は夜行バス岡谷駅まで行きJRで茅野駅まで移動すれば夏沢鉱泉から迎えの車が来てくれる手筈です。雪上車に乗り換え夏沢鉱泉に到着すれば、即座に根石岳、天狗岳を往復する予定です。翌日はオーレン小屋から夏沢峠、硫黄岳、天候が良くて体力があれば横岳まで足を延ばそうかと思って予定を立てました。長野県警茅野警察署には登山届を提出し、姫の荷物は15s、ジョンは20s、不要なものは夏沢鉱泉にデポできるため少々多めの荷姿です。ポチは「寒いのは苦手・・」とか言いましたのでお留守番になり、お見送りと出迎えの車を出して協力してくれることになりました。(雪山は寒いに決まってるやろ〜!)

八ヶ岳には伝説があります『大昔、赤岳の神様「磐長姫」と、富士山の「木花咲耶姫」がおりました。木花咲耶姫はいつも、「私の方が赤岳よりずうっと背が高く美しい」と自慢ばかりしていました。それを見かねた、峰の松目の如来様が「水裁判をしてやろう」と思い、赤岳の峰から富士山の頂上に長い樋をかけ、夏沢の水をそそぎました。
タイムスケジュール
09:50 夏沢鉱泉
10:50 オーレン小屋
11:00
12:00 箕冠山
12:40 根石岳
13:40 天狗岳
14:40 根石岳
15:04 箕冠山
15:45 オーレン小屋
16:25 夏沢鉱泉
すると水は富士山の方へ勢いよく流れ下り、赤岳の方がはるかに背が高いことがわかると富士の木花咲耶姫は大変くやしがり、腹をたてて赤岳の峰をけとばしました。その時の流れた水は、富士の足元、富士五湖に成り、富士の白糸の滝と成り、今日も変わる事なく水をたたえています。又、磐長姫の流す涙は諏訪湖、松原湖、白駒池に成りオーレン強清水になって流れとなり、現在に至っている。けとばされた赤岳は八ツの峰に分かれたそうな。』

昔から八ヶ岳の中心を夏沢峠として、その境から南を南八ヶ岳、北を北八ヶ岳と分けて呼んでいます。南八ヶ岳は夏沢峠から南、硫黄岳・横岳・赤岳・権現岳を経て編笠山までになります。2010年に訪れた時「また来るからね。今度は登るからね」と硫黄岳に話しかけていましたので実現できてとてもうれしく思っています。

●3月20日(火曜日)移動日

大阪発22時10分発松本行きのバスに乗車するためポチに車で送ってもらい阪急三番街の高速バス乗り場から独立席三列の夜行バスを利用し岡谷駅に向かいます。

午前5時38分岡谷駅前到着。岡谷駅の赤いネオンが目に入ります。見上げてみると長野道が頭の上を走っていました。ここから午前6時07分発のJR高尾行きに乗り下諏訪駅、上諏訪駅を経て20分足らずで茅野駅到着しました。改札口を出ると通勤客や通学生でいっぱいです。待合室に入って午前8時の夏沢鉱泉よりのお迎えの車を待ちました。長いなぁと思っていましたが洗顔したり、レーションを買い求めていたりしたらあっという間に8時10分前になり送迎車専用停車場に向かいました。8時ちょうどに見覚えのある夏沢鉱泉のライトバンが来てくれました。夏沢鉱泉の迎えの車は予約時には「9時6分到着の電車でのお客様があればお迎え時間は午前9時過ぎという事になります」と言われていたのですが、予約客がなかったのか午前8時には迎えにきてくれていました。夏沢鉱泉に行く途中の橋はすべて夏沢鉱泉先代社長の「おやじ」が掛けたと言ってたのを思い出しました。天の岩戸から大きなツララがぶら下がり、雪の下でじっと春を待つしゃくなげ並木を通り「治朗兵衛沢の出合」で、いよいよ雪上車に乗り換えです。途中で自家用車の客の山梨県から来たというアマチュアカメラマンの男性を乗せ、山の神を過ぎると雪道になってきました。治朗兵衛沢の出合でワゴン車から雪上車へ乗り換えです。雪上車はお世辞にも快適とは言えず、車の揺れに身を任せ雪原と樹林帯の中を雪上車は石コロの上を走っているようでお腹にズキン、ズキンと響きます。ジョンは「耳石が正常位置に戻るかも!」と喜んでいました。山小屋近くになると川に流れる水の色が変わってきました。水は透明なんですが石が鉄分を含んで茶色になっているためだそうです。夏沢鉱泉(2060m)午前9時10分到着です
夜 10:20 梅田発 翌朝 5:38 岡谷駅前到着 6:06 岡谷駅発 20分ほどで茅野駅到着
茅野駅からワゴン車で 途中雪上車に乗り換え 夏沢鉱泉到着です 着いたぞ〜
2年前と変わらない建物が出迎えてくれました。チェックインを済ませ部屋に案内をしていただき、着替えなどの荷物を残し、今日は根石岳から天狗岳を目指します。午前9時50分、いよいよ山行スタートです。夏沢鉱泉のスタッフに雪質の状態を尋ねると「雪はしっかりと絞まっているためスノーシューはいらないと思います」とアドバイスを受け、アイゼンのみで出発することにしました。
箕冠山を目指します 硫黄岳が見えてきました オーレン小屋から箕冠山ルートに入ります
出発をして5分ほど行ったとき「カメラ忘れた〜!」とジョンが慌てて引き返しました。再びカメラ片手に戻ってくると「GPSも忘れとったわ!」(ジョンも年やなぁ!今日の山行は気を付けよう〜っと)オーレン小屋で先に出発した同宿の山梨県のアマチュアカメラマンに追いつき、しばし談笑しました。彼は硫黄岳を目指すということで夏沢峠をまっすぐ目指して行かれました。私達は左に折れて「箕冠山」の看板を目指します。
オーレン小屋辺りから見た硫黄岳
ルートに入ってまもなくツーストックにアイゼンを履いた女性2名と男性1名が降りてこられました。
「おはようございます。随分と早いお戻りですねぇ」と声をかけると「いや、いや、根石岳に行きたかったのですが根石のコルの強風に恐れをなして這う這うの体で逃げてきたところです」「お互いに気を付けて行きましょう」 と声を交わしすれ違いました。
ジョンは快適に歩いていたつもりでしたが箕冠山の手前で急に失速
「足が上がらない!」とのこと
「先に箕冠山まで行って、ここからの距離を確認しといて」と言われ先に行くことにしました。
後からジョンが登ってきて箕冠山でアンザイレンをして根石のコルに入りました。八ヶ岳名物「根石の強風」は今日も健在です。
箕冠山に到着です
箕冠山から見た根石岳と西天狗岳(左)
根石岳を見上げると数人の登山者が下ってこられました。私達が根石のコルから登りはじめる頃、登山者とすれ違いました。「コンニチワ」と挨拶を交わした後、姫がすっとんきょうな声で「登山家の野口健さんですね?」とお尋ねすると「はいそうです」「すみませんが写真を1枚撮らせていただけませんか?」「いいですよ」 と快くお返事をいただきサングラスを外してくださいました。突風の中の思いがけない写真撮影で感動です!手袋を脱いで握手を求めると野口健さんも手袋を脱いで握手に応えてくださいました。感激です!。
すごく嬉しかったです。雪の八ヶ岳に来て良かった。野口さんはとても素敵な紳士でした。
野口健さんとお別れして根石岳をめざします。
ジョンはかなりつらそうです。雪面がクラストしていてバランスを崩すと危険なためビレイをしながら登っていきます。
どうにか根石岳(2603b)に到着です。北西方向の遠くに見えるのは燕、大天井岳、常念岳や蝶ケ岳を有する常念山脈。その奥には槍ケ岳から穂高への峰峰が西方向まで続いています。西方向には乗鞍岳と御岳山。南西の方向には仙丈ケ岳、甲斐駒ケ岳、北岳が並んで見えます。その奥に連なるのは南アルプスの峰峰。鳳凰三山は阿弥陀岳の山容に阻まれて確認できません。ほぼ南方向に富士山が位置しているのですが残念ながら硫黄岳の影に隠れて見えませんでした。南南東の方向から東にかけて秩父の山々が春霞の中にぼんやりと浮かんでいる。まさに360度の大パノラマ。この絶景は生涯忘れることはないでしょう。
根石岳に到着です (奥の白い山は天狗岳)
根石岳山頂から見た天狗岳 (左・西天狗 右・東天狗)
記念撮影を済ませ頂上の岩場の裏側に廻り込むと垂直に思える急斜面が目の前に広がります。「これを降りて行くの?」「そう!一歩づつ刻んで降りて行こう」 恐ろしい個所が2か所ほどありましたが一歩また一歩。急斜面の中なので止まりたくはなかったのですが、あまりの寒さに耐えきれず窪みを見つけて、強風の中でダウンジャケットを着こむ羽目になりました。手を離せばすべての物が飛んで行きそうです。
コルに降りると天狗岳が高くそびえています。登山道は雪に消え、凍てついた斜面を登って行きます。先ほどすれ違った野口健さんのアイゼンの爪痕を姫のアイゼンが踏み潰してゆきます。
ピッケルのスピッツェをつき立て、入らないところではトラクションでピックを思い切り打ちこんで登って行きます。一歩踏み外せば根石のコルまで滑落です。右に飛ばされれば佐久側に真っ逆さまです。頂上までもうすこしと言うところに緑色の網目の鉄梯子がかかっていてました。こわごわ渡ると、その先の頂上直下には5メートルほどのナイフリッジが見えました。
「あれを渡るの?」「あれを渡らんと頂上には行きつかない」
精神を統一し、思い切って登っていくとやっと頂上に到着です。西に真っ白な西天狗、北東に稲子岳、南に目をやると硫黄岳、赤岳、阿弥陀岳がくっきりと見えます。先ほど登ってきた根石のピークも小さいながら凛として構えていました。
                            天狗岳の南斜面にて→
天狗岳山頂 黒百合平方面
硫黄岳・赤岳・阿弥陀岳 西天狗岳
しばらく休憩をした後、先ほどのナイフリッジを下って行きます。生きた心地はしませんでした。一貫の終わりかとも覚悟しました。そこを過ぎると快適に根石のコルめざします。
コルから見上げる根石岳は白く輝き、クラストしているのがよくわかります。きつい登りですが頑張って登り返していきます。此の頃になるとジョンは5〜6歩登っては一休み、5〜6歩登っては一休みの状態で、ここに置いて帰るわけにも行かずロープにテンションをかけて引き上げて行きました。それでも10歩歩いては休み、10歩歩いてはまた休みの連続です。シャリバテかも知れないと思いましたが突風の最中、ここで食べるわけにも行かずチョコレートを2個ほど口に含み、どうにかこうにか根石岳頂上に到着しました。山頂の岩の中にはさまれるようにして風をよけ温かい紅茶とサンドイッチをお腹の中に入れると元気回復です。やはりシャリバテだったのでしょうか。しかし箕冠山へ登り返す頃になるとジョンがほとんど動けなくなりました。ロープにテンションをかけながら引っ張り上げます。何度も休憩を繰り返しながら箕冠山に到着です。ここでアンザイレンを解き目出し帽を脱ぎオーレン小屋に向けてゆっくりと下っていきます。

 ←天狗のコルから見た根石岳
根石岳山頂から見た南八ヶ岳方面
オーレン小屋の陽だまりでしばし休憩をしていると箕冠山方面から降りてきた単独行のおじさんと出くわしました。おじさんは今夜はオーレン冬季小屋を利用するそうです。、私達は夏沢鉱泉の温泉を楽しみにするのだと話し、小屋の前で別れました。夏沢鉱泉に向けて下山中、最後の橋を渡った頃リュックの中の携帯電話が鳴りました。何事かと思って出ると夏沢鉱泉からの電話でした。
「帰着予定の4時が過ぎましたので電話をさせてもらいました。いまどのあたりですか?」
根石岳山頂 箕冠山山頂
「最後の橋を渡ったところです。あと10分もすれば帰れます。心配かけてすみません」
「承知しました。お気きをつけて!」

万が一の初動捜索のためには帰着予定時間を過ぎれば確認してもらえると言うのは大変ありがたいことです。夏沢鉱泉に到着するなり
「ただいま帰りました!心配かけてすみません!」
係りの女性スタッフは笑顔で
「お帰りなさーい。お風呂に入れますよ」
何事も無かったかのように出迎えてくださいました。

アイゼンを外し、部屋に帰ると山梨県のアマチュアカメラマンさんは強風で硫黄岳登頂を途中であきらめ下山し入浴を済ませビールで和んでいました。冷え切った体を少しぬるめの温泉でゆっりと温め(秘湯系、湯色は茶褐色、泉質は硫黄泉、効能は胃腸病、糖尿病、皮膚病、神経痛、リューマチ。)午後6時からの夕食をいただくことにしました。2年前もそうでしたが山小屋にしては豪華メニューです。

夏沢鉱泉で使う食材は、オーナーの畑で採れたての新鮮な野菜をふんだんに使った手作り料理でお味噌もお米も自家製だそうです。豊富なメニューを褒めると「社長が、ここは登山者の皆さんのベースキャンプのようなところ。ここから山へ登る人たちにお腹いっぱい食べてもらってパワーをつけてもらい元気に戻ってもらいたい」との願いから豊富なメニューなのだとスタッフが説明してくれました。
寝床には「湯たんぽ」が用意されていてほっこりと心温まる夜を過ごすことができました。
1日目 3月21日(水) 2日目 3月22日(木) 3日目 3月23日(金)
0 美智子姫:記0000